古墳群についての堺市世界遺産学習ノートのレビュー

15:07:00
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堺市
学校の教育現場では,教科書以外にも様々な副教材が用いられているのは,皆さんもご存知の通りだと思います。

教科書は国の検定を通ったものしかありませんが,副教材の場合は検定制度が無いこともあって自治体が編さんしたものであったり,教材会社が作製した副教材を購入して使用したりとバリエーションは様々ですね。

さて,堺市では,小・中に堺市の地理・歴史を深く学んでもらえるようにという観点から,社会科に関しては副教材を市の教育委員会で編さんして配布し,授業で使っています(使っているはずですよね……)。

堺市の小・中学校の社会科に強く影響してくる副教材は次の3点です。
  1. 『わたしたちのまち堺』:小3・4対象
  2. 『堺市世界遺産学習ノート』:小6・中1対象
  3. 『わたしたちの堺』:中1~中3対象
今回は,上に挙げた副教材の中で2016年の夏に発刊された2.の『堺市世界遺産学習ノート』をレビューしてみたいと思います。

『堺市世界遺産学習ノート』とは?

堺市世界遺産学習ノート 表紙
これは2016年7月末に発刊されたものです。
右に掲載してある表1の画像は,筆者が購入した書籍をスキャンして画像処理したものです。
中身が32ページに表紙(表1~表4)でという形になっています。
なお,内容は7章構成となっています。

このノートは,百舌鳥・古市古墳群の世界文化遺産登録を目指す活動の一環として発刊されたものです。

市政情報センターでの頒布価格は110円となっています(年度が替わればどうなるかはわかりませんけど……)。

基本的には,このノートは授業の際にも活用していきたいとのことです。
世界遺産登録に向けて機運を醸成したいという市側の意図はわからないではありませんが,効果のほどはどうなんでしょうか。
おそらく藤井寺市の取り組みを模倣したのだと思いますが……。

ちなみに,このノートを作製・配布・頒布するためにかけられている費用は,予算案では300万円のようです。
堺市の平成28年度当初予算案の主な施策事業(PDFファイル・14ページの中段参照)

フォントについてのレビュー

基本的に本文のフォントは教科書体ですし,漢字の用語にはルビがきちんと振られています。
図表のキャプションなんかには丸ゴシック体を使っているのでさほど違和感は感じません。

堺市世界遺産学習ノート 第1章タイトル
ですが,目次や章題のフォントはいただけません。
目次や章題のフォントは右の画像参照を参照してください(堺市世界遺産学習ノート第1章の章題を引用,目次と章題は同フォント)。
こんな不格好なフォントを使わず,もっと読みやすい中ゴシック体とかを使うべきですよ。

他には,ハニワ課長とかの吹き出し中の話し言葉のフォントなんかも話し言葉用のものとしては見栄えがちょっと微妙に思えてなりません。
そういう話し言葉とかにこそ,モリサワのじゅんとかを代表とする丸ゴシック体系のフォントの出番なんじゃないのかな?

もちろん,組版の依頼先で使えるフォントのラインナップにもよりますが,ちょっとフォントの選定には疑問を感じざるを得ない部分があります。

内容についてのレビュー

第1章について

まず,第1章ですが「子ども堺学」とかいうしょうもない造語を作る必要はないと思いますけどね?
「堺について学ぶ」ぐらいのタイトルで十分なはず。
少なくとも昔の堺市立の小・中学校でこのような語は出てこなかった気がしますし,古くから在住している人からしたらなにそれ? となる用語ではないでしょうか。
何か変な方向にベクトルが向いているような気がしてなりません

次に,常体・敬体が混じっています。その部分(本文2ページの冒頭2文)を次に引用します。
身近なことから始め,堺の歴史や文化,産業などを調べよう。
わたしたちは,これまでの学習で,住んでいる地域や堺市について学んできました。
と書かれています。
1文目は常体ですが,2文目以降の本文の文末は敬体で書かれていることを考えれば,1文目の文末は「調べましょう」とするか「調べてみましょう」とするのが妥当なはず。

3ページのハニワちゃんの言い回しも引っかかりますね。
百舌鳥・古市古墳群が世界遺産登録をめざすんだって!
とありますが,ここは「が」ではなく「の」を選ぶべきではないでしょうか?

第2章について

この章は写真をふんだんに使って,外国の主な世界遺産の一例と国内の世界遺産を4ページにまとめています。

ストックフォトサービスはほぼこの章のために使われていますから,この章はだいぶお金がかかっているでしょう。
金額的には最低でも予算の10%ぐらいは画像データの使用のためにかけられているのではと推測します(10%は間違いなく軽々と超えてるはず……)。
まあ,プロの写真を使わせてもらうともなれば,金額がそれなりにかさんでしまうのはやむを得ないことではあるのですが……。

このノートをずっと発行し続けることになると,そこそこの固定経費が4年に1度ぐらいはかかり続ける形になると思われます。
ここらへんはよく考えたいところです。
積もり重なっていくと無視できない金額になりますし。

第3~4章について

3章は両古墳群の空撮写真とそれぞれの大まかな解説で,4章は古墳についての解説です。
ここは良くできていると思いました。

第5章について

せっかく,百舌鳥・古市古墳群を世界遺産にと運動しているわけですから,古市古墳群の解説がこの章にないってのは,ちょっといかがなものかと思います。
百舌鳥古墳群は代表的な古墳には割と詳細な説明を書いているわけです(まあ,堺市内にある古墳群なので当然と言えば当然ですが……)。

古市古墳群は堺にはありませんが,両古墳群の世界遺産登録を目指す運動の一環として考えると,いささかバランスを欠く気がしますが……。

第6・7章について

第6章は,市の動きと「市民の会」の動きについての記載が半分を占めています。この半分は「古墳とともに~古墳を大切に~」という章題とかみ合った内容になっていません。
どちらかというと,「古墳群を世界遺産に!」とでもした方がまだ適切でしょう(それはそれで政治色が強く出過ぎなのですが……)。
教材として考えれば,内容の半分にいささか政治色が出過ぎであると感じました。

章題からは「仁徳陵をまもり隊」とか堺市立堺高校の生徒さんによる古墳の水質浄化とか,市民の人の清掃活動とかをもっとクローズアップすべきでしょう。
他には,水質浄化活動に取り組み続けた結果(BODとかCODとかの水質の指標の推移)を図示してみるのもありかもしれません。

堺まつりのパレード写真とかはぶっちゃけ入れる必要あったんですかね?

第7章は堺市博物館の紹介,古墳群に関するクイズ,古墳群の地図でできています。
クイズや地図は良いですが,堺市博物館の紹介に3ページを割く必要があったのかどうなのかは疑問です。
私個人の意見としては,堺市博物館の紹介をもっと圧縮して浮いたページで5章の最後に応神天皇陵の解説に1ページ程を割けば良いのにとは思いました。

入手先について

最初に紹介したこれらの書籍は,堺市の市政情報センター(市役所高層館3F)で購入できます。
ひょっとしたら,区役所の市政情報コーナーの方で買えるかもしれませんが……。
区役所の方に在庫があるかどうかについては,事前に問い合わせてみることを推奨します。
区役所に無ければ,市役所の市政情報センターに行けば確実に入手できるでしょう。
市のプレスリリース通りなら,堺市博物館にも置いてあるかも。

私は昨年の夏に市役所の高層館3Fで購入したわけですが,ひょっとしたら各区役所でも買えたのかもしれませんね……orz

最期に

ノートよりも既存の2冊を増補・改訂する方が良かったのでは?

最初の方で本の名称だけ紹介しておきましたが,基本的に小学生には中学年向けとはいえ,もともと『わたしたちのまち堺』が,中学生には『わたしたちの堺』が作製・配布されています。

これも,両方を購入して中身を確認しましたが,『わたしたちのまち堺』の6ページ分は百舌鳥・古市古墳群や世界の主な世界遺産,堺市立博物館について書かれています。
『わたしたちの堺』の3ページ分は,世界遺産についての説明(国内の世界遺産一覧と暫定遺産リストを含む)や百舌鳥・古市古墳群についての話がざっとですが書かれています。

本来は,この学習ノートの内容を2冊それぞれに割り振って増補・改訂する方が良かったでしょうね(改訂のサイクルもあるでしょうから一概には言えませんが,世界遺産を目指してということなら古墳群の世界遺産を目指してという観点から2冊の増補・改訂に取り組む十分な理由にはなったとは思いますよ)。

『わたしたちのまち堺』なら8ページか16ページほど増やして写真の大きさやレイアウトをいじって改訂すれば,かなりの分はカバーできるでしょう(いっそのこと小6あたりまで配当・使用学年を広げるのも一手です)。
中学生向けの『わたしたちの堺』なら16ページぐらい増量すれば,今回のノートの中学生レベルの内容はほぼカバーできるはずです(堺市博物館とかの話は小学生の方に振ればカットできるでしょう)。

一応,8ページ単位で考えているのは,面付・印刷~製本までの段階の実務的な話を考えての最低単位といったところです。

言っちゃ悪いですが,300万円の税金をかけてまで作る必要があったとは……という感じです。
既存の2冊の大改訂までの中継ぎ用途として考え直したとしても,良い部分があったとはいえ単独のものを作製する必要性は無かったんじゃないかなあと思います。

代表的な古墳周囲は現状でも課題が山積

そもそも,古墳群の世界遺産登録を目指すにしても,古墳の周囲にまだまだ難ありの状況。
一番の目玉となるであろう仁徳天皇陵の周囲ですら,まだ問題を抱えているのが現状です。
周囲をぐるっと回るにしても1か所が住宅に遮られ,順路沿いには○○○が営業してる状況ですよ……(伏字にしたところはGoogleのストリートビューででも閲覧してもらえればお分かりいただけるでしょう)。

こういうやり方も一手だという点は否定しませんが,本気で世界遺産登録を目指すなら古墳周囲の環境整備にもっと注力しなければならないと思います。
仁徳天皇陵から大仙公園を抜ければ履中天皇陵があります。
履中天皇陵は仁徳天皇陵以上に古墳を眺めながら周回するのが困難なんです。
しかも,履中天皇陵周囲の住宅は比較的新しく建てられたところもそこそこあるようで,周回のための歩道整備の困難さは仁徳天皇陵周囲の比ではないかも……

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